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名古屋家庭裁判所 昭和48年(少)2417号 決定 1973年8月15日

少年 K・N子(昭三三・七・二三生)

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、昭和四七年一月頃から昭和四八年三月頃までの間○○市内等において男女友人らとしばしば深夜自動車で遊び回り、無断外泊、繁華街徘徊、怠学等の不良交友に耽り、○○県中央児童相談所の一時保護その他種々の措置を受けたが素行納まらず、同年五月一五日頃父、妹と共に本籍地に転居したところ、同年六月五日頃家出して○○市内で補導され、一旦帰家し、同月一五日本籍地の中学校へ転校手続がとられたのにもかかわらず、全く登校せずに再び家出し、行きずりの未知の男性と遊興に耽つたりした後、同月二〇日頃から愛知県○○市○町×丁目××番地飲食店「○○○」(○川○隆経営)に住込稼働し、約一週間余り後に退職して、再び行きずりの男性らと数日間行動を共にし、同年七月六日頃○○市内の姉のもとへ赴き、同月一五日午後二時頃から午後四時頃までの間○○郡○○町○○○において外五名の少年らと共に速乾ボンドを吸入する所謂ボンド遊びをしていたものであるが、

1  同年六月二七日午後二時頃、稼働中の前記飲食店「○○○」において○川○隆所有の現金七万二、〇〇〇円位外財布一個(時価二、〇〇〇円相当)、免許証一冊を窃取し

2  同年七月六日午前一一時二〇分頃、愛知県○○市○○町×丁目××番地市立○○病院女子療二階一一号室において、○村○予所有の現金一万円位、○原○代○所有の現金一万五、〇〇〇円位合計二万五、〇〇〇円位を窃取し

たものである。

(適用法令)

いずれも刑法二三五条

なお、昭和四八年少第二四一七号ぐ犯事件の送致事実は、上記冒頭の事実と概ね同様であるが、本件窃盗事件の要保護性に関する事実として考慮すれば足りるので、敢えて非行事実として摘示しない。

(処遇)

1  少年は、北海道で建具師を営む父K・Rの二女として出生し、父の職場の移動に伴つて幼時より北海道内において転居、転校を重ね、昭和四六年一月頃父母の都合による別居の結果母に伴つて○○市に転居し、同年四月中学校に進学したが、同年六月頃から怠学繁華街徘徊の問題行動が始つた。少年は、幼時より上記のとおり不安定な生活を強いられたうえ、家庭内において父母に全く放任され、また幼時期の疾病に因る左足障害のためにいじめられることが多く、良き家庭、良き友人に恵まれなかつたことが、前記学校不適応家庭離反および種々の問題行動の主要な原因となつていると認められる。そして、昭和四七年一二月頃、母は父が北海道から戻ると間もなく父の持ち帰つた金銭を持出し、家族を捨てて家出し、現在なお所在不明であり、少年は、その後父に伴つて本籍地に転居したが、新しい環境になじむこともできず、その家庭離反、心情不安定が一層強められるうちに本件非行が惹起されているのである。

2  少年の父は、現在比較的安定した職に就いたようであるが(汚水処理の自動車運転手)、本籍地へ転居の際少年の転校の手続きを徒らに遅滞させ(学校側の指導の不十分も否定できないが)、本件非行についても親としての責任を回避する態度をみせ、少年に対する指導能力は著しく乏しいというほかはない。

少年は、本件非行以前には格別の犯罪非行はなく、その非行性自体はそれ程強度のものとは認められず、また、本件非行に対する反省の態度も一応示しているのであるが、その家庭離反傾向、遊惰な生活態度、思慮に乏しい即行的な行動傾向は、かなりの長期間に亘つて定着し、改善困難な段階に達していると考えられ、例えば本件非行前に住込先の自室に置くべく高額の家具類多数を一時に注文する等の行動にもみられるように正常な生活を維持運営するための年齢相応の能力も著しく劣る(但し児童相談所の記録によれば知能は正常である)ことが明らかである。

3  以上によれば、少年が現在の生活環境において落着いた生活を送ることは殆んど期待できず、その要保護性は極めて高度であるといわざるを得ない。そして、過去の児相福祉法上の二度に亘る一時保護を含む各種措置も効を奏しなかつたこと(もつともその中には、左足障害の治療の目的で身体障害児施設に収容したが失敗に終るという少年の心情を理解しない疑問な措置もある)、現段階においては相当強い枠組の中で処遇を要すると考えられること等を考慮すると、少年を初等少年院に送致して、基礎的な生活習慣を身につけさせ、義務教育を修了させると共に将来の自立更生のための適当な職業補導を施すのが相当である。

なお、少年院在院中に、少年の左足障害の治療が可能であるなら、その治療が少年の更生に資するところは大きいであろうと考える。少年院に然るべく努力を望みたい。

4  よつて、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判官 多田元)

処遇勧告

少年 K・N子(昭和三三年七月二三日生)

少年の処遇に関し、明敏少女苑院長に対し、次のとおり勧告する。

主文

少年の左足機能障害につき、在院中速やかに手術等必要な治療を実施すべく処遇上適切な措置を講じること。

理由

少年は、昭和四八年八月一五日当裁判所で窃盗、ぐ犯保護事件により初等少年院送致となり、明徳少女苑において矯正教育を受けているものであるが、その非行原因については、家庭環境の問題のほかに、少年が幼時から左足機能障害による強い劣等感を有することが考えられる。特に、中学校在学中その左足機能障害のために仲間外れにされたことが、学校不適応と不良交友等のぐ犯行為の大きな原因となつていたことが明らかである。そこで、左足機能障害の治療が、少年の更生のため極めて重要な意味をもつと考えられるところ、前記少年院送致決定当時はその治療の可否が不明であつたため、当裁判所は、とりあえず生活指導、義務教育課程の教科指導および職業補導を施すべく初等少年院に送致し、上記治療の可否の検討および治療の実施につき少年院の効力に俟つこととしたのであるが、担当裁判官が、昭和四九年一月二九日および同年三月二九日の二回にわたり少年の動向視察をしたところ、医師の診断の結果、前記障害は手術による治療が十分可能であり、手術に要する時間も少年の在院予定の期間内で十分足りることが判明したが、医療少年院における手術の可否、手術費用の捻出、一般の病院で手術を実施する場合の看護の職員等に関して更に検討を要する問題が存するとの報告を受けた。

しかし、少年は手術の可能性を知らされて、在院中早期に手術を受けることを切望しており、保護者の保護能力その他帰住環境に照らすと、出院後の手術は極めて困難であると考えられた。また、現在、少年は中学課程を修了したところであるので、処遇上も手術実施の好機であるということができる等の諸事情に鑑み、在院中に手術を実施することが、少年の前記のような大きな心理的負担を取除き、その更生意欲を高めるために是非とも必要であり、少年に対する処遇の要諦であるといわなければならない。

そこで、当裁判所は、少年院長に対し、早急に医療少年院における手術実施の可否を検討し、もしそれが不可能である場合には、一般の病院の協力を得て手術を実施するための看護の職員の配置、手術費用の捻出(予算措置、保護者の費用負担、医療扶助等の方法の検討を含めて)等について必要な措置を講じたうえ、少年に手術を受けさせるよう望むものである。

よつて、少年審判規則三八条二項により、主文のとおり勧告する。(なお、同勧告にかかる諸措置につき少年法二八条に基づき、適当な時機に経過を報告されたい。)

昭和四九年三月三〇日

名古屋家庭裁判所

裁判官 多田元

参考

明少発第二四七号の三

昭和四十九年六月十二日

名古屋家庭裁判所長殿 明徳少女苑長 山崎ヒサノ

在院者移送通知

保護番号

昭和四八年 第二四一七号

移送理由

備考

過剰収容緩和のため

少年は義務教育未修了の上左足機能障害を有し入院したものであり義務教育を三月十四日修了しましたので将来のためにも障害除去手術をすることが必要と思料され送致決定書主文並びに処遇勧告書にも強くこの旨が要望され、又少年保ゴ者ともに手術を切望する旨の申出があり過日総合病院及び六月八日京都医療少年院に診察をうけたところ手術可能の旨内諾を得ましたので義務教育修了とともに障害を除去してやることが将来の更生のために大切であると思料京都医療少年院への移送方申請六月十一日名古屋矯正管区長の認可を得たものである。

氏名

K・N子

入院後の行状不良のため

決定

名古屋家庭載判所

昭和四十八年八月十五日

[初等] 中等 特別 医療[少年院送致決定]

成績好転のため

移送年月日

昭和四十九年六月十二日

発病のため

移送先

少年院名

京都医療少年院

病気治癒のため

種別

初等 中等 特別 [医療少年院]

その他

障害(左大腿四頭筋拘縮症)除去手術のため

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